麻酔美人〜AnotherChloroholmer

 「ぼ,僕がですかあ?」
 「そうだよ,君が選ばれたんだ。おめでとう。」
 全てはこの会話から始まったのだ。
 僕の名前は,柿崎純也。大学で国文学を専攻している。それで学内文学コンクール
に軽い気持ちで応募したら,なんと大賞を受賞してしまったのだ。そして,それを映
画化したいと言い出した連中が居た。芸術学部の映画研究会の奴どもだった。
 僕は,鉄道研究会に所属しているが,その部室に沢山の女の子が入って来た。
 何事かと訊ねれば,映画の出演者だと言うではないか。
 僕の小説は,臓器売買をめぐるマフィアと正義の味方の壮絶なるバトルという月並
みなストーリーであったので,その餌食役の女の子達と言う訳だった。
 その中に,僕の好みの女の子が居た。自己紹介によると,彼女の名前は,高田千夏
・18歳だと言う。近々誕生日だそうだ。彼女のお腹が触りたくなって来た。僕には
彼女と肉奴隷が居る。「彼女」は児玉のぞみ,「肉奴隷」は田沢樹里。僕にとって肉
奴隷とは,お腹を触らせてくれればそれだけで良い。お股の穴ぼこや胸の丘にはあま
り興味がない。いや,あまりではない。無い,のだ。
 彼女らを手中に入れた時,ちょっとした犯罪をしたのだ。
 科学界では大変立派な存在なのに,世間では悪者扱い。それは・・・クロロホルム
を使って眠らせたのだ。・・・家に帰ればまだ原液がある筈だ。エヘエヘエヘッ,い
ざ実行。
 数日後,彼女を呼び出すのに成功した。彼女は,クライマックスで餌食にされる高
校生役である。臓器売買で,内臓を切り分ける場所として,医学部の簡易実習室を借
りる事になっている。監督からのお願いで,原作者直々の演技指導をする事になり,
他の女の子や男の子にも教えて来た。だから,「呼び出し」を不審に思う事無く現れ
た。
 「先輩,宜しくお願いします。」
 「うん。じゃあ,早速だけど横になってくれないかな?」
 「は,はい。」
 高校生を演じるだけあって,茶色のブレザーに青のチェック柄のスカート姿であっ
た。その制服は,某アイドルの出身校にそっくりであった。と言うより,本物であっ
た。裏ルートで手に入れたのだ。
 「・・・とマフィアが言ったら,首を振るんだ。イヤイヤってね。」
 「はい。」
 「じゃあ,これをさせてね。」
 それは手錠だった。実際,ストーリーに登場するのだから,彼女は驚きもしなかっ
た。ただ,用意が良いですね,とだけ言った。手錠で四肢を,彼女が横になってい
る手術台に取り付けた金具と繋いだ。
 僕は彼女のスカートを捲った。キャッと悲鳴をあげた。そして抗議を始めた。僕は
ニヤニヤしながらそれを聞いていた。
 「真剣に聞いているんですかっ!?」
 「ウン,聞いてるよ。君が,お腹を触らせてくれる肉奴隷になってくれるなら,
 この手錠をはずしてあげるよ。さあ,どうする?」
 「い,イヤです。」
 「そう,残念だな。じゃあ,イヤでもなって戴きましょう。」
 そう言うと,僕はポケットからハンカチを取り出した。そして,薬品棚を物色して
茶褐色の小瓶を手にした。彼女は顔だけ起こすと,顔を引き攣らせた。
 「さあ,おねむの時間ですよ。」
と言いながら,茶褐色の瓶の中身をハンカチに振り掛けた。充分湿った所で,それを
彼女の口と鼻を覆った。
 「むぐっ!むぐーうっ!むー,むーーーーーっ!!!!」
 彼女は,目を見開いて首を左右に振った。髪の毛が乱れる。乱れた髪の毛が,欲情
をそそぐ。眉間に皺を作っている。
 「むうー―――うっ,むぐっ,むぐーーーーうっ!!!」
 外れない事が解っているが,もしもという事があるかもと思って,必死に脚をばた
つかせている。太ももが見事に揺れている。彼女は,そのクスリが何だか解ったよう
な気になった。このツーンとする甘酸っぱい香りは麻酔薬のクロロホルムだ!
吸ってはいけない。吸ったら眠ってしまう。吸ったら思う壺。だから息を止めてい
た。しかし,それにも限界があった。目がトローンとしてきた。駄目!眠ったら駄目
!意識と身体は比例してはくれなかった。だんだん視界が狭まってきた。
 駄目!眠ったら駄目・・・・・・・・・・・
 落ちた。手術台の上で,制服と髪の毛を乱して,それでも美しい寝顔を曝してい
た。僕は,デジタルカメラを物陰から回収した。今の一部始終をビデオに録画してい
たのだ。そのカメラ片手に,彼女のブラウスのボタンを開けてお腹の肌を出して思う
存分楽しむ事が出来た。

 その数日後。
 田沢樹里は,自宅で読書をしていた。
 樹里の家を抜き足差し足で移動する影があった。その影は樹里の後ろに回ると,濡
れたハンカチを口許にあてがった。彼女は目を見開いたが,僕だと思ったらしい。
 「柿崎先輩?止めて下さい。」
 その言葉を聞き届けると,ハンカチを抑える力を強めてきた。
 彼女は,火事場の馬鹿力で,自分を押さえ付ける腕に噛み付いた。影は一瞬ひるん
だ。その隙に樹里は腕から逃れた。彼女を再び捕まえようとしたが彼女がこちらを向
いたからたまったもんじゃない。
 影の正体は・・・・・・児玉のぞみだった。

 何故,のぞみがクロロホルマーになったか。それが解ったのはウ〜ンとあとであっ
た。それはまた後日。
                       The End     

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