麻酔美人〜Revenge

 僕の名前は,石川牧男。柿崎純也は,いとこのお兄さんである。
 僕は,この純也兄さんにある液体を貰う事になった。そのいきさつと,使い道を皆
さんにお話する事にしよう。

 まず,僕は高校2年生である。
 成績は,後から数えた方が楽である。特に,英語は超低空飛行であった。
 それは,英語のセンセが悪いんだ。
 僕が通っている学校は私立で,成績のつけ方が少々複雑である。中間テストと期末
テストの得点の平均に,±20点までの「普段点」を加える。この普段点とは,例え
ば,真面目に勉強しているのに成績がよろしくない時,おまけするのに使う点数であ
る。だから,中間テストで70点,期末テストで80点取り,15点貰ったとすれ
ば,90点が成績表に書き込まれる。
 この「20点」が問題なのだ。
 僕の英語のセンセは,寺岡涼子って言う24歳の若い人だ。
 この涼子センセは,自分が気に入った生徒には20点丸ごとあげて,それ以外の生
徒は−20点してしまうのだ。気に入った生徒は,美男美女だ。僕は,はっきり言っ
て冴えない男だ。
 僕と同じ「境遇」の不良少年が数人,僕に声を掛けてきた。
 「なあなあ,マッキーさんよぉ。」
 僕のあだ名である。
 「何?」
 「英語の涼子,ムカつかない?あいつに復讐て言うか,懲らしめてやんない?」
 「・・・・・・・そうだな,いいかもしれないな。僕も,留年がかかってるんだ。
手伝うよ。」
 「それじゃあ,どうやって懲らしめてやろうか?」
 「なあ,僕さ,親戚のお兄さんにいい物を借りる事ができるかも知れないんだ。」
 「オッ,いいねいいね。借りて来いよ。」
 「もちろん。」
 と言う訳で,お兄さんを訪ねていった。そして,事情を話すと,お兄さんは怒りも
せず,押入れをゴソゴソやると,ビンに入ったブツを出してくれた。
 「いいか,使い方は解るな。じゃあ,せいぜいお巡りさんのお世話にならない程 
度にな。」
 と言って,それを無償でくれた。
 
 翌日。
 不良少年達が,ニコニコして教室へ入って来た。
 「マッキーさん,貰ったきやしたか。」
 「勿論。」
 そして,僕は彼らに計画の全容を説明した。
 「マッキーさん,それは名案だぜ。いやあ,感心したな。」
 「はいはい。じゃあ,段取りを覚えてね。」
 「うん。」
 その日の放課後が計画決行となった。その日は,英語の授業は無かったので,涼子
センセとは逢わなかった。
 さて,涼子センセは毎日4:30に帰宅すると言う事が解っている。それで,職員
室を出たところから,僕が尾行する。携帯電話で居場所を報告しながらの尾行であ
る。それも,不良少年(沢木と大川と言う名前である)の運転するバイクに便乗して
センセを追い掛ける。
 さて,センセは時間通りに学校を出た。僕は,沢木の運転するバイクに乗って尾行
を開始した。
 センセは,1時間かけて歩いて帰る。朝は,電車を使うが,帰りは買い物もする為
に歩くんだそうだ。歩き出して,20分。水田の広がる地区に出た。周りは何も無い
に等しい。道幅も車1台分しかない為,交通量も0に近い。
 今だ!!
 僕は,携帯電話で大川に連絡した。
 「今だ。頼んだよ。」
 「了解。」
と答えたと同時に,後から1台のバンが走って来た。運転しているのは,二人の不良
グループの先輩だった。僕のバイクは,田んぼのあぜ道へ曲がって行った。
 「済みません。道を教えて頂きたいんですが・・・・」
 「あ,はい。どちらへ行く,ウグッ。」
 後部座席の窓から大川が腕を伸ばし,白いハンカチを彼女の顔に押し付けているの
だ。そして,先輩と言う木村と言う名の男が,車から降りて体を羽交い絞めにしていた。
 「やめな,ウグッ,やめろっ・・・・・・ううっ・・・・・ムームームーーー
ムー」
 「やめろ」の言葉を聞くと,大川はハンカチを押し付ける力を加えた為,声になら
ない声を出していた。
 足をばたつかせている。足が車にガツンガツンと当たっている。
 「ムームーーーームームー,ムグッ,ムウーーームー・・・ムグッムグッ」
 咳き込んでいる。そして,彼女はクルッと回り込むと,木村を柔道の背負い投げで
投げてしまった。
 「いい加減にしなさい!私を誰だと思っているのよ?私はね,高校から大学まで柔
道やってたんだよっ。高校の時,国体で優勝してんだよ。え?」
 「・・・・・・・・・」
 計画は見事に失敗したが,僕達の成績に関しては保障して貰える事になった。

 「兄さん,参ったよ。涼子センセ,美人なのに,柔道やっていたとは。」
 「ホントだよな。でも,まあお巡りさんのお世話にならなかっただけいいじゃない
か。」

  完

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